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ハルヒ「やりたいのよ・・・!! やるわよ! どけ邪魔臭い!!ロリエロゲ!うせろ!! のれえんだよ!マイピクチャにいれすぎなんだよ! おい!!!」 キョン「・・・・。」 ハルヒ「インターネットさせろぼろPC!!!!!」 ハルヒは怒鳴るとキーボードで モニターを18回殴った ハルヒ「・・・・、始まれ!っていてるだろ!!! うせろ!SOS~!!ボロPCうぜぇぇぇええ!! ア・・ハァ・・・・・ハァ・・・・ハッ・・!」 古泉「・・・・・。」 ハルヒ「なんだよコイツ?! お絵かきチャットで荒らすな!!豚ーーーー!!!! 死ねちんかす野郎!!!」 古泉「・・・・涼宮さんおちついてください。」 古泉「ぐわっ!!」 キョン「古泉!!」 バンッ、 ハルヒ「うそだ!ふたばになんで 擬人化スレないの?! スレ立て・・すればいいのよ・・・。 ・・・・サイズが大きすぎる?! そんなばかな! イヤーーーー!! オーフォフォフォww 人生オワタ!!イヤァァァア! イヤァァオアオアオオアオ、 おあー、ゆるせねー、糞板フォーーウ!!、 SOS団の団長ハルヒが、こんな 板にやられちゃうわけ?! 私の名前はハルヒ!! サイズ小さいのupするわ! ・・・・おあ?この写真は犯罪?! 死ねーーー!! 消えうせろ!!ファック!まじうぜえええええええええええええ しねえええええええええええええええ しねええええええええええええええ みんなしにうせろもういやだあああああああああああああああああ」 古泉「・・・・。」 キョン「・・・・。」 みくる「うえーーーーーん!」 長門「・・・・・・・・」 (元ネタはキーボードクラッシャーだと思われる)
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(これは涼宮ハルヒの憂鬱を 格闘ゲーム化したら どんなふうになるのかを 予想したもの・・。) キョン -KYON- 「投げつけ」 【↑+A】 「叩きつけ」 【↓+A】 「空中蹴り」 【↑+↑+B】 「カウンター」 【←+B】 注意「技はゲージがMAX時しか使用不可能」 ━技名「蹴り殴キョンキョン」━ 「蹴り」 【B】 「2回蹴り」 【B+A】 「+強パンチ」 【↓】 みくる -MIKURU- 「みくるビーム」 【→+A】 「チェーンソー」 【接近して ↓+B】 「熱湯茶こぼし」 【→+B】 「エアガン発砲」 【B (連続押しで連発)】 「包丁切りつけ」.【B+A 同時押し】 ───技─── ━鉄パイプ刺し━ (ゲージMAX時) 通常に腹に刺す 【A】 顔に刺す 【+B】 即死刺し 【↓+A の後 →+B】 出現方法 「ハルヒ でSTORY MODE をクリア」 小泉一樹 - Koizumi - 「アナル槍刺し」 【背後で相手の方向+B】(女には無効) 「シイタケ殴り」 .【A(連続押しで連殴攻撃)】 「テドドン発射」 【↑で大きくし ↓+Aで発砲】 「テドドン射液」 【B(8回まで可能・行動停止する)】 「空中シイタケ」 【空中で A+B+B+A】 ─技─ (ゲージMAX時) 「キョンたん奪うYO」 【キョンに接近しA】 チームバトルのとき、 これを使うとキョンが仲間になる(キョンが敵の場合) 「シイタケ究極フィア」 1回目【A+↑】 投げ飛ばし 2回目【B+B】 (空中で) 射液2回 3回目【A+→】 とどめ 出現条件 「VIPスレッドタウン でVIPPERを9人犯す」 「キョン でホモハウスへいく」 長門 -NAGATO- パソコン投げ 【→+A】 ムチ攻撃 【A】(小泉にやるとシイタケカウンター) 銃発砲 【B】(連発可能。最大30発) ショットガン 【↑+B】(近ければ大ダメージ) マシンガン 【→+B】 マウス投げ 【↑+A】(連投可能) ─特殊攻撃─ 連続攻撃処理 【↓+B】 (連続攻撃・必殺技を相手が使っている 最中に押す) ───技─── ゲージMAX時 「情報連結解除」 【↑+→+↓+←+B】 10秒後発動。成功すれば相手消滅。 涼宮ハルヒ - HARUHI- かなりの最強キャラ 強蹴り 【A】(大ダメージ) ぶん殴る 【B】(大ダメージ) チェーンソー 【→+A】 (みくるのチェーンソーよりもダメージ大) 首絞め 【↑+A】(Aを連打すれば一時行動停止) 椅子攻撃 【↓+A】(中ダメージ。連打不可能) 日本刀斬【→+B】(大ダメージ。連打可能) ──技── (ゲージMAX時) 大波動砲 (火炎) 【A】 火炎放射の強化版発砲 大波動砲 (爆発) 【B】 (火炎)を撃った後に可能。即死。 ここから先は敵キャラになりまする ダーク古泉 =DARK HOMO= 最初 【殴攻撃 → 空中投げ →アナル砲】 ダメージ中【殴攻撃連続】 ダメージ小【即死攻撃 or 空中シイタケを連発】 死ぬ寸前【自爆。このときHPが少ないと死亡】 ゲージMAX キョンの場合 【アナル槍刺し。キョン即死。回避不可能】 長門の場合【戦闘終了。(長門は死亡しないで、)】 みくる・ハルヒの場合【↑と同じ。】 ラスボスの手下 「 1」 最初【スレ建て(HP回復)を行い、攻撃】 ダメージ中【豚投げ】 ダメージ小【VIPビーム】 死ぬ寸前【防御をずっと行う。】 ラスボスの手下2 「鶴屋さん」 【ハンドガン発砲】 受けるダメージは大きい 【ロケットランチャー】 1発使い捨て。食らうと即死 【ガトリング】 ダメージが少なくなるとずっと連発する 【にょろ】 34回、連続で殴る。1回のダメージは最小 LAST BOSS(キョン編) 「ダークハルヒ」 装備:血濡れ刀 【首斬り】ジャンプし、落下すると同時に首を斬る。即死 【心臓刺し】物凄い速さ。即死。しかし使用回数1回。 【振り回し】 左右に適当に振り回すwww -武器が【チェーンソー】に切り替わった時- 【首斬り】 即死。 【上下振り】 かなりの大ダメージ。食らうとHP1 【肩斬り】 肩にチェーンソーを乗せる。即死 LAST BOSS(長門編) 「朝倉」 【長槍刺し】 即死。長いので危険。 【生命処理】 謎の光に包まれると一発で即死 【武器処理】 されると、武器攻撃不能。技で我慢する 【足処理】 動けなくなる。(一時だけ、) 【生首入手】 首を斬られる。無論、即死。 LAST BOSS(ハルヒ・みくる・小泉) 「谷口」 【蹴り】 0ダメージ 【首絞め】 0ダメージ 【殴る】 0ダメージ 隠しキャラ みくる(スーパーコスチューム) 【↑+A】 みくるビーム・上 【↓+A】 地震マグニチュード9.0起こし ダメージ大 【→+A】 一回転蹴り 【←+A】 バルカン発砲 【A+A】 みくる雷ビーム 【B】 蹴り。(連発で40蹴り) 出現条件 「古泉 がキョンを犯す」 「涼宮ハルヒ ~ファイターズ・メモリ~」 税込み9800円 未発売中!!
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「ちょっと……どういうことよ、記憶を消去するって!」 「言葉の通り。あなたの能力は自覚するにはあなたの精神への負担が大きすぎる。 故に、このことを忘れ自覚してない状態に戻すのが適切と判断した。」 「でも……でもそれじゃあ、今までと変わらないじゃないの!」 確かにな。ハルヒの能力が消えるわけじゃない。 ハルヒ自身が忘れるだけで、神懸り的な能力も閉鎖空間もそのままだ。 だが…… 「いいんじゃないのか?それで。」 自然に口から出た言葉。これは俺の本心だ。 「これは俺自身の勝手な考えだがな、ハルヒ。俺はお前に振り回される日々、嫌いじゃないんだぜ? 能力的な面でも、そうでない部分でもだ。 お前、自分の役職言ってみろよ。」 「……SOS団の、団長……」 「だろ?お前普段から言ってるじゃないか。団長について来い、ってさ。 お前は自分の周りのヤツらを振り回すぐらいで丁度いいのさ。」 「でも、迷惑だとは思わないの!?」 「正直、時々は思うさ。でもな、今のお前みたいな姿を見るよりは、迷惑かけられる方が100倍いい。 お前には、いつでも笑っててほしい。さっきみたいな笑みじゃないぞ、心から笑ってるいつもの笑顔だ。 これが俺の気持ちだ。……みんなは、どう思う?」 俺は朝比奈さん、長門、古泉に問い掛けた。 さっきのは完全に俺の本心であるから、他の三人がどうかはわからない。 もしかしたらこのまま自覚したままの方が都合がいいかもしれない。 だが…… 「わたしも、キョン君と同じ気持ちです。」 「……わたしも。」 「僕もです。涼宮さん、あなたが笑っていてくれることが、僕らにとっては1番重要なことなのですよ。」 ほらな。みんな同じなんだ。 そりゃ最初はいろんな組織の思惑があってSOS団に居たのかもしれないさ。 だが今は違う。ハルヒの笑ってる顔が好きだから、俺達はここにいるのさ。 「じゃあ長門、やってくれ。」 「わかった。」 長門がまた例の高速呪文を唱えた。するとハルヒは瞳を閉じて、その場に倒れこんだ。 「ハルヒ!」 「心配ない。今は寝ているだけ。起きた時は能力に関する記憶は全て消えている。 涼宮ハルヒが能力を自覚した上で願ったことも全て無かったことになる。 だから朝比奈みくるの未来も、大丈夫。」 「そ、そうですか、良かったぁ……」 朝比奈さんはへたへたと座りこんで安堵の笑顔を見せた。あなたもその笑顔が1番似合っていますよ。 しかし…… 「俺は時々、コイツの能力をうらやましいと思ったことがあったが…… 考えてみりゃ、残酷な能力だよな。」 もし俺がハルヒと同じ能力を無自覚で持っていて、ある日突然自覚せざるを得なくなったら…… 俺だって正気を保てる自信が無い。 「その通りです。考えてみてください。夏休みがいつまでも続いてほしい…… こんなこと、誰だって考えることです。悪いことではありません。 ですが、それを叶える能力を持ってしまったが故に、時間のループという現象を生み出してしまうのです。 しかも本人は無自覚のままで。こんなに残酷な能力はありませんよ。」 古泉が俺の意見に同調した。 実際、ハルヒの能力に1番振りまわされているのは古泉と言える。 ハルヒのご機嫌を取ったり、閉鎖空間に駆り出されたりな。 「なあ古泉、ハルヒを恨んだことはあるか。」 「……無い、と言ったらウソになりますね。 能力に目覚めたての時は、憎かったですよ。なんで僕が、ってね。 ですが今は違いますよ。彼女もまた、能力の被害者の一人だと認識していますし…… なにより、彼女に振りまわされる日々も気に入っていますから。あなたと同じように、ね。」 古泉が俺に対してウィンクをした。だからやめろって、気持ち悪い。 「涼宮ハルヒは能力という爆弾を抱えている、非常に脆い存在。」 長門が口を開いた。脆い、か……そうかもな。また今回みたいなことが起きないとは言いきれない。 「だから、彼女を支える。それが、私達の役目。」 ……そうだな。長門の言う通りだ。 爆弾を持っているんなら、俺達が爆発しないように見守っていてやればいいのさ。 とりあえず、俺はハルヒが目を覚ましたらこう言ってやろうと思ってる。 「お前は、笑顔が1番似合ってるぞ。」ってな。 終わり
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いつからだったのだろう──── ────世界に色がついたのは いつからだったのだろう──── ────静寂に音楽が流れ始めたのは いつからだったのだろう──── ────いつも笑ってられるようになったのは いつからだったのだろう──── ────私の心にあいつが現れたのは ‐ 涼宮ハルヒの羨望 ‐ いつもと変わらぬ日常。 くだらない授業。 適当に聞いとけば満点の取れる内容なんて、ばかばかしくてイヤになる。 くだらない、ほんとにくだらない。 この生活が気に入っている人も居るんだろうケド、私にとってはただの苦痛。 なんで私はここにいるの? なんのために生きてるの? ふと、頭をよぎる当然の疑問。 誰しもが思い、誰しもが感じる、疑問。 ねぇ、なんで? 小さく、ほんとに小さく、誰にも聞こえないように呟いた。 そうすることで、何かが変わる気がしたから。 実際は─── ───言うまでもないケド。 退屈は私を覗き見る。 退屈は私を蝕む。 まるで、私は私自身が置き物のように感じる。 その気持ちに押しつぶされそうになる。 目頭が熱くなる。 私は、世界の部品じゃない。 耐え切れなくなって、前の席を叩く。 「……どーした?」 授業の邪魔にならないように、小さく呟くキョン。 めんどくさそうに、いかにもめんどくさそうにね。 キョン。 「何だ?」 ……なんだろう? 何のためにキョンを呼んだの、私。 こいつと話してると気がまぎれるの? そうなの、私? 「………ハルヒ?」 何よ 「いや、用はないのか?」 あるわけないじゃない。 ないから呼んだんじゃない。 ……あー、我ながら意味わかんないわね。 イライラするイライラするイライラする。 なんかない? 我ながら馬鹿馬鹿しい台詞。 「なんか、ってなんだ?」 なんかはなんかよ 「まず、何をしたいのか俺によくわかるように言ってくれ」 再び私を沈黙が覆う。 私、何がしたいの? …… 「ハルヒ?」 なんでもない。 「……おーい?」 もういい。 私がそう言うと、諦めたのか、前を見る。 そして会話中に黒板に書かれた文章をノートに書き写す。 なんでこいつはこんなに勉強しててあんなに頭悪いの? ばっかみたい。 長く連なる時の流れは私に退屈という名のナイフを突き刺していく。 その苦痛のせいで、寝ることもできない。 何か起こらないかな。 そんなどうでもいいことを望む。 ───あら? 何気なく校庭を眺めると古泉くんが歩いて校門へと向かっていた。 なんだろう、早退かな? 具合は悪そうに見えないから、何か用事でもあるのかな? 古泉くんの帰宅する理由を考えることで多少の気はまぎれた。 でもわかんないから今度聞いてみよう。 覚えてたら、だけどさ? ───キーンコーンカーンコーン やっと。 やっと終わった。 なんでこんなにかかるの。 時と交渉ができるのなら私の時間だけ早く進むようにして欲しい。 あ、楽しいときは別よ? 楽しいときはむしろ時間の流れを遅くして まぁいいわ、ようやく、私の時間だから。 「ハルヒ、さっきはどうしたんだ?」 不意に前の席から声がかかる。 なんでもないわよ、さ、行くわよ 「行くって?」 SOS団に決まってるじゃない! 「あ、ああ」 私は彼を残して教室を飛び出る。 待ちに待った放課後の時間。 待ちに待ったSOS団! さぁ、今日は何をしようかしら。 みくるちゃんにどんな服着させようかな。 そういえば昨日ネットオークションにかけられてたコスプレどーなったんだろう。 落札できてるといいな。 頭からどんどん湧き出る期待を胸に、私は意気揚々と文芸部室へ飛び込んだ。 部屋には有希と着替え中のみくるちゃんがいた。 「やっほぉー!」 「あ、こんにちは涼宮さん」 挨拶はもっと元気よくしなさい! そうね、語尾ににゃんとかつけるといいわ、かわいいから。 30分後、キョンが遅れてやってきた。 遅い! なんで私と同じクラスなのにこんなに遅いのよ! 「ちょっと成績のことで岡部とな」 なんなら私が一から教えてあげてもいいわよ? 丁寧に、かつわかりやすく。 「いい、隣で『なんでこんな簡単なのわかんないのよ、もーぅ』とか言われたくないから」 失礼ね! そんなこと…………ないと思うわよ? 保障はできないけど。 うん、100%なんてこの世に存在しないんだから。 「そういえば古泉は?」 古泉くんならさっき学校を出て行くのが見えたけど? 「古泉一樹は用事のため早退」 あら、有希、聞いてたの? 「昼休みに少しだけ」 理由はわかる? 「不明」 そっか。 楽しい部活の時間が過ぎていく。 有希が本を閉じた。 それは部活終了の合図。 いつも凄く正確で、驚くぐらい。 私は荷物をまとめて部室を出る。 明日は土曜日ね、いつもの場所でいつもの時間に!古泉君にも言っといて。 最後にそう皆に伝えた。 登校の時はキツめの坂道を、私は悠々と、一人で降りる。 ずっと、皆といられたらいいのに。 ふと、立ち止まる。 ずっと、いられたらいいのに? 不意に、不安が、私を掴む。 どうしてこんな気持ちになるの? わからない。 まるで、この日常が壊れることへの不安? 気にしすぎよ、少しは体もやすめないと壊れちゃうわ。 違う。 何が違うのかはわからない。 けど、何か違う。 いつも感じる日常とはまた別。 退屈という名のナイフじゃない。 これは何? 不安で足を早める私。 家について、ご飯を食べても、まだ私に絡みつく。 お風呂を浴びてさっぱりしても、何なのこれ。 部屋の中で電気もつけずに、私は枕を抱きかかえる。 ふと、思いついた。 ピリリリリリリ 「もしもし?」 キョン、私だけど。 「どうした」 ……… まただ、なんで私またキョンに? 「明日、ちゃんと来てよ?」 …今更じゃない、私? キョンは予定をサボったりはしない。 少なくともいつもはそうだったし。 「どーした?」 何が? 「なんか、今日のお前変だぞ?」 気のせいよ。 「…そうか?」 そうよ。 「わかった、明日もちゃんと行く」 絶対よ? 遅刻したらまたおごりだからね! 「遅刻しないでもおごるのは俺じゃねーか」 つべこべ言わないの! 「へいへい、じゃ、また明日な」 あ、キョン。 「ん?どした」 ……なんでもない。 「?」 明日、ちゃんと来なさいよ? 「わかったわかった、んじゃな」 電話が切れる。 なんだろう、この気持ち。 カーテンを開けて、窓の外を見る。 どこまでも広がる、星の瞬く夜空。 3年前に校庭に書いたメッセージは、どこかで誰かが読んでるだろうか。 その日の月は、とても綺麗だった。 ふぁ~。 よく寝た。 夜空を眺めながら、私はカーテンを開けて寝た。 そうすれば私は安心できたから。 昨日、あんなに不安でいっぱいだった頭も、一晩寝たらすごく軽かった。 結局なんだったんだろう、あれ。 まぁいいわ、準備して行きますか。 キョンより早くいかないとね、おごりはあいつ、私じゃないわ。 そこについた時、キョン以外のメンバーはすでにいた。 やっぱりできのいい団員がいると違うわね、うん。 みくるちゃんはやっぱりかわいいわね、私服も。 「そーですかぁ?ありがとうございます」 ほんとにかわいい、もし私が男だったら襲ってるわ、間違いなく。 有希、いつも眠そうだけど、ちゃんと寝れてる? 「大丈夫」 いつも通りの口調で返答される。 ならいいんだけど。 古泉くん、なんで昨日早退したの? 「少し親族のほうに急な用事ができまして」 肩をすくめて笑顔で答える。 ふーん、ま、いいわ。 にしても、キョンはいつも遅いわね。 いっそのこと集合に遅れないように私が毎朝電話してたたき起こしてやろうかしら。 時間が過ぎていく。 遅い! 遅い! 本当に遅い! もう一時間も遅刻してるじゃない! 携帯に連絡しても出ないし! なんなのよもう! それにしても遅いわね! 何してるのかしら! もう一度携帯電話に手を伸ばす。 こうなったら出るまでずっとかけてやるんだから! ピリリリリリリリ…… ガチャッ あら?繋がった? 「ハルヒちゃん?」 出たのは、キョンの母親だった。 なんで? 予想もつかなかった。 考えたくもなかった答えが返ってきた。 うそよ! 公道を私達を乗せた車が疾走しついく 「きっと、大丈夫ですよ、涼宮さん」 ありがとう、みくるちゃん。 そうよね、大丈夫よね。 うん、じゃなきゃ許さないわ。 絶対、絶対許さない。 だって、だって約束したじゃない、今日絶対来るって、昨日。 「もうすぐつきます」 古泉くんが呟いた。 走る窓から病院が見えた。 キョンが倒れた? ありえない。 そんなベタな展開、認めないからね。 さようならも言えずに、サヨナラなんて、そんなの認めないからね! 原因は何? なんで倒れたの? なんでキョンなの? どうして今日突然? 昨日までピンピンしてたじゃない! 病院につくと同時に、私はキョンの入院してる部屋まで駆け出した。 前もあったっけ、こんなこと。 クリスマスパーティの準備中に、あいつがいきなり。 やだ、思い出したくない! いやよ!いやよいやよ、いや! 気を失ったキョンの顔。 でもあの時は、ちゃんと起きたわよね。 そうよ! 今回も大丈夫なはず! じゃなきゃ許さない! 約束したじゃない、来るって! 胸へとつかえる何かを感じながら、私は病室のドアを開いた。 そして感じた、視線。 私を見つめる、妹ちゃんの目。 キョンの母親の目。 お医者さんの目。 そして、 キョン!よかった! キョンが私を見ていた。 意識は戻ってたらしい。 心配かけるんじゃないわよ!バカ! 私はキョンに駆け寄って、まくしたてた。 ホントは別のことを言いたかったけど、とにかく、無事でよかった。 ほんとに、よかった。 なんでそんな目で私を見てるの、キョン。 まるで、初対面を見るような─── 「ごめんなさい、あなたは、誰ですか?」 ―――――嘘って言ってよ 私は望んでいただけ そしてあいつは、それに応えてくれていた 私は調子に乗っていたのかもしれない 一度も、あいつの事を考えてあげなかった いや、考えてはいたのよ でも、結果的に、私はあいつを蝕んでいた そして、あいつが手のひらからこぼれおちた時 ようやく、そのことに、気がついたの キョン? 「キョンというのは、俺のことですか?」 何言ってるの? キョンはキョンよ、あなたでしょ 「すみません」 なんで謝るの? なんで?なんで?なんで? 「ごめん、なさい」 胸が痛む。 本当にキョンは申し訳なさそうな顔をする。 やめてよ。 「え?」 こんなの、キョンじゃない…… 「落ち着いてください、涼宮さん」 …みくるちゃん 「少し、話をしてもいいですか?涼宮さん」 キョンに聞こえないように私に呟く古泉くん。 古泉くん、話って何? 「彼の記憶喪失の原因についてです」 記憶、喪失? キョンが? うそよ、何それ。 何それ何それ何それ。 もしかしてそれが倒れた原因? 「医師の話によると倒れた理由も記憶を失った理由も同じらしいです。」 廊下で医師から一通りの説明をうけたあと、私は古泉くんと話していた。 古泉くんが続きを述べ始める。 「彼の精神は極度に疲労していた、それが倒れる原因になったと」 疲労? だって、そんなそぶりは一度も。 「長い間に蓄積されたものらしいです。」 どういうこと? 「例をあげて説明しましょう。 フラッシュバックというものがあります。 麻薬の一部には使用することで幻覚を見るものがあります。 その時の感覚が忘れられず人は使用を繰り返し、何度も使用するうちに麻薬は人の体を蝕みます。 重度の中毒者になった場合は、麻薬の恐ろしさに気づきやめるでしょう。 しかし、たとえ長い時間をかけて回復しても、ふとしたきっかけで全てが麻薬をしていた状態に戻ってしまうことがあります。 それが、フラッシュバックです。」 必死に理解する。 「つまり、彼の中には長い間精神的疲労、言わばストレスがたまっていきました。 しかし、そのストレスは小さなもので、簡単に消えていったはずです。 それが、何かのきっかけで消えたはずのストレスが一気に戻ったとします。 いわばストレスのフラッシュバックと言いましょうか、そうして、彼は倒れたのです。」 どうして? つまり悩みを抱えていたんでしょ? どうして私に言ってくれなかったの? 「それは、おそらく」 そこまで言って、古泉くんは口を閉ざした。 いつになく真剣なまなざし。 知ってるの? じゃあ、教えて。 「だめです」 なんで 「だめなんです」 教えないさいよ! 「涼宮さん……」 いいから、教えろって言ってんでしょうが!! ふと、気がつけば有希が隣に立っていた。 何? 「あなたは、知るべきではない」 何それ なんでよ? 「後悔する」 なんで? 「選択して」 何を 「知りたい?」 当たり前じゃない 「わかった」 「長門さん……」 「彼女は選んだ、知ることを。 だから伝える。」 「……わかりました」 「彼のストレスの原因は、」 私は言葉を待った。 沈黙で耳が痛くなった。 「あなた」 わたし? なんで、私なのよ。 「本当に、おわかりでないんですか?」 何を。 真剣なまなざしで、いつもと違う、怖い顔で私を見る古泉くん。 「彼はいつもあなたに合わせてきました」 ………… 「そしてあなたはまれに彼の精神レベルを超えた要求をしていたんです」 ………て 「それが彼のストレスとなった」 ……めて 「彼はあなたにこたえるために、いつも無理をしてきた」 …やめて 「彼はお人よしですからね」 やめて! 私は気がついたら両耳を抑えて叫んでいた。 「知ることを選んだのは、あなたです」 古泉くんは私に追い討ちをかける。 「だから伝えました、真実を」 いつからだったのだろう──── ────世界に色がついたのは いつからだったのだろう──── ────静寂に音楽が流れ始めたのは いつからだったのだろう──── ────いつも笑ってられるようになったのは いつからだったのだろう──── ────私の心にあいつが現れたのは いつからだったのだろう──── ────私の中のあいつがこんなにも大きくなっていた いつからだったのだろう──── ────あいつは、私にとって必要な人になっていた …ごめんね 私は泣いてた。 ごめんね、ごめんね、キョン 俯いて、両手で、顔を覆って。 ごめん、ごめん、ごめんなさい 有希が、倒れこもうとする私の体を支える。 「今日は、もう帰りましょう」 古泉くんがいつもの優しい口調になって喋る。 「あなたも、少し休むべきです」 うん、ごめんね。 「大丈夫です、おそらく一時的な記憶の混乱です、すぐに治りますよ」 そうね。 治ったら、いいな。 うぇえ… 「涼宮さん…」 どうやって帰ったのか覚えていない ただ、体がすごく重たかった ご飯は、全然おいしくなかった お風呂は、全然気持ちよくなかった どれだけ泣いたんだろう 枕は涙でびしょびしょだった でも、涙は枯れなかった 枯れてくれなかった 枯れるどころか、どんどん溢れでる 私にとって、それほどに大きくなってたんだ キョン 私は呟いた そして、泣き疲れて、寝てしまった 闇が、私を包んでいく 再び目を覚ましたとき、灰色の空の下、私は駅前の公園に居た。 そして、キョンがそこにいて、私を見ていた。 前にも似たような夢を見た。 夢よね? 夢、だよね? 目の前に立つキョンが私を見つめる。 私は耐えられなくなって視線を逸らす。 「ここは?」 キョンも驚いたような声を上げる。 当たり前よね、なんで私夢の中でまでキョンに迷惑を── 「ここは、覚えてる」 キョンが呟いた。 私は、はっとして彼を見据えた。 覚えてるって? 「なぜかはわからない」 キョンは私と目を合わせた。 私は今度は逸らさずに彼の瞳を見据えた。 申し訳なさそうな、でも、力強い瞳。 「ここに来なきゃいけない気がしたんです」 なんで? 「約束したから……」 私は、また泣いた。 ありがとう、覚えててくれて。 声を上げて泣いた。 ごめんね?ごめんね? ほんとに、ごめんなさい 私のせいで、私の、せい、で ふと、私の体がひっぱられた。 背中にキョンの左手が回される。 頭をキョンの右手が撫でる。 暖かい。 ありがとう。 ありがとう。 ありがとう。 もう少し、このままで。 「何、泣いてんだハルヒ」 ――――っ!キョン? じっとあいつの顔を見つめる。 いたずらっこみたいな表情で私を見る。 もしかして、記憶が? 「迷惑かけたようだな、悪ぃ」 軽く悪びれたそぶりで語るキョン。 迷惑? 迷惑かけたのは私のほうなのに? 「ハルヒ?」 私は、あなたにむりをさせたのよ!? 私は、あなたにわがままを押し付けたのよ!? 私は、私は、私は、あなたを、縛り付けたのよ!? 私、あなたに………謝りたかった 「ハルヒ」 何? キョンが私の目を見る とても力強く、決心したように。 私を抱いていた手に、力が入る。 痛いぐらいに、でも暖かい。 「どうして、俺がお前のわがまま聞いてたか、知ってるか?」 え? 「お前のことが大切だったからだ」 ………キョン? 「ハルヒ、俺はな、お前のことが──── え。 ふいに、目を覚ました。 頬を伝う涙。 体に残るあいつの温もり。 ベッドから降りる。 携帯を鳴らす。 再び、彼のもとへ 今度こそ、言えなかった言葉を。 ごめんね、と。 ありがとう、と。 そして───── ピリリリリリリ…… カチャッ 「もしもし?」 キョン? 「どうした?わがままな団長さん」 - 涼宮ハルヒの羨望 終 - 涼宮ハルヒの羨望、外伝 笑ってくれる 私のために 私みたいなわがままなヤツのために 嬉しかった すごく嬉しかった 私のわがままにつきあってくれる それがたまらなく嬉しかった ある雨の降る放課後 私とあなたしかいない部室 寝ているあなたにそっと呟いた ――――ありがとう ‐ 終 ‐
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前線基地に向かうトラックを激しい爆発音が揺さぶる。突入前の準備として、学校の砲撃隊が北山公園の植物園に 120mm迫撃砲による徹底した砲撃を行っているのだ。空気を切り裂くような音が頭上をかすめるたびに 身震いを覚える。あれに当たれば、身体が傷つくどころか粉々に吹っ飛ぶんだろうな。 そんな中、前線基地に到着し、古泉小隊と鶴屋さん小隊の入れ替えが始まる。 「やあっ! キョンくん! また、会えてうれしいよっ! これから一緒にめがっさがんばろうね!」 鶴屋さんのテンションの高さは相変わらずだ。そんな彼女にハルヒも満足げのようである。 てきぱきとしたハルヒの指示により、2分とかからずに入れ替えが完了し、 「さて! いよいよ突入よ! 気を引き締めなさい!」 ハルヒの声が合図となり、またトラックが動き始める。 植物園が近くなるにつれて、爆発音が激しくなってきた。激しい土煙が植物園を覆っている。 その中、俺たちはついに北山公園内の植物園に突入した。同時に砲撃も停止する。 先行するトラックに乗っていたハルヒは一目散にトラックから降りると、 「行け行け行け!」 そう他の連中に降りるように指示を出し、自身はM16を抱えてそこら中めがけて乱射を始める。 ハルヒの配下の生徒たちもそれに習うように、トラックから降り乱射を始めた。辺りに広がる森、建物に向かって。 俺も遅れまいと、次々にトラックから自分の小隊を降ろし始める。鶴屋さんも同様だ。 2~3分だろうか。そのまま、乱射が続いたが、やがてハルヒが右手を挙げた。どうやら、撃ち方やめという意味のようだ。 俺も周りに乱射をやめさせる。ほどなくして、乱射が収まり、辺りに静寂が戻った。しかし、銃声音が頭の中に残って うっとうしいことこの上ない。 「何にもねえな……」 俺は思わず声に出してしまったが、これは予想外だった。当然、激しい抵抗があるものと思っていたが、 すんなりと突入に成功し、さらに敵の一人すらいない。どういうことだ? みんな地面に伏せて銃を構えている中、ハルヒだけは仁王立ちのように突っ立っていた。あのバカ、狙撃されたらどうするんだ。 「国木田。俺はハルヒのところに行ってくる。ここを頼む」 「了解」 俺は国木田の肩を叩くと、前屈みでハルヒの元に走った。同じタイミングで鶴屋さんもやってくる。 「どういうことなの? まるっきり抵抗がないなんて張り合いなさ過ぎ」 「何でも良いから少しは身を低くしろ、おまえは」 そう俺は脳天気なことを言っているハルヒの迷彩服をつかみ、無理矢理屈みさせた。 「さ~て、ハルにゃん、これからどうするにょろ?」 鶴屋さんの問いかけにハルヒは真剣に悩み始める。確かに、これはおかしい。やはり古泉の言うとおり罠だったのか? だが、敵は俺たちに考える余地を与えるつもりはないようだ。数発の爆発音が北高の方から飛んできた。 すぐ近くにいた通信機を持った生徒をハルヒは呼び、 「有希!? 何かあったの!?」 『前回と同じ攻撃を受けた。数発だけで、損害は軽微』 的確な長門の返事にハルヒは安堵した表情を見せる。だが、またすぐに苦渋に満ちた表情に戻り、 「罠だろうが何だろうが、あれの攻撃方法をつぶさない限り、あたしたちに勝ち目はないわ。予定通りに行きましょう。 鶴屋さんはロケット弾発射地点と思われる北山公園南部をお願い。キョンは北側ね。とっとと制圧したら鶴屋さんの援護に 向かうこと! いいわね!」 話し合いはここまでだ。俺は自分の小隊まで戻る。 「よっし、俺の小隊はこれから公園北部に行くぞ。前進しろ」 俺の指示の元、小隊は北部へ移動を開始した。鶴屋さんも南部に移動を始める。とにかく、とっとと北部をつぶして、 鶴屋さんの援護に向かわねばならん。 ◇◇◇◇ 「なあ、キョン」 林の中をじりじりと北部へ移動する最中に谷口が気の弱そうな声で聞いてきた。 「なんで散策用の道をつかわねえんだよ。歩きにくくてたまんねえ」 「おまえは待ち伏せされて、皆殺しにされたいのか?」 そう谷口の意見を一蹴する。北山公園は公園だけあって何本かの道があるが、当然敵がいるなら、 やすやすと通してくれることはないだろう。それに見通しが良すぎて狙い撃ちにされてはたまらん。 そばにいた国木田もあきれたように、 「谷口は結構貧弱なんだね」 「うるせえ。戦争するための訓練なんてやっているわけがねえだろうが。はっきり言ってこれは無駄な浪費だぜ。 あー、この体力をナンパにまわしてぇな」 「おまえが黙れ」 黙々と俺についてくる小隊の中で、ただ一人ピーピー文句を言う谷口を黙らせる。 ただ、薄暗い森の中、おまけにどこに敵が潜んでいるかわからない状況では、谷口の普通っぷりが かえって俺に安堵感を与えているのは事実だ。 と、国木田が突然真剣な目つきで銃を構えた。さらに一斉に周りの生徒たちも構え始める。 呆然としていたのは俺と谷口だけだったが、目の前の木々の隙間に何かがいることに気がつくと、 あわてて構えた。 隠れていたのは、鶴屋さんの行ったとおり真っ黒なシェルエットのような人間?だった。 腰にAKらしき銃を抱えているが、こちらには向けていない。 「おい、キョン……! とっとと撃とうぜ……」 今にも泣き出しそうな声で谷口が言う。どうする? 撃ってしまって良いのか? それとも捕まえるべきか? だが、俺が迷っている間にそいつはとっとと逃げ出しやがった。全力で地面の悪さも気にせず、 一目散に北に向かって失踪する。 「くそ! 逃がすな!」 ミスをしてしまった。偵察兵かもしれないのに、ここで見逃せば俺たちの位置が敵の主力に伝わり、 攻撃されるかもしれない。そうなる前に……! 「キョン、待って!」 国木田の制止も聞かずに、俺は一目散に逃げるシェルエット人間を追いかけ始めた。 小隊全員も俺について走り出す。 逃げる奴は姿が真っ黒というだけで、全く人間と同じような走り方をしていた。 草を手ではねのけ、溝を跳び越え、ばたばたと足音を発しながら逃げていく。 「もう少し……!」 もうちょっと追いついたら、奴を背中から撃ってやる。それで仕留められるはずだ。 だが、先に発砲したのは俺じゃなかった。タンタンと乾いた破裂音の次に、バスっと二度と忘れないんじゃないかという いやな音が背後から飛んできた。俺は立ち止まって振り返ると、そこには通信機を背負っていた阪中が倒れていた。 頭部から出血までしている。撃たれたのは確実だった。 「キョン! まずいよ!」 国木田がそばにいて切迫した声を上げた。前からは逃げていた敵と入れ替わるように、 銃を手にした数人の敵がこっちに向かって来ていた。さらに左右からも銃撃が始まる。 「阪中から無線機を!」 俺は身近にいた生徒に無線機を取るように伝える。阪中がやられた以上、別の誰かに持たせないと―― だが、すぐにその生徒も胸を撃ち抜かれた。血しぶきと肉片が飛び散った光景は当分忘れないだろう。 「おいキョン! どうするんだよ!」 谷口はひたすらおろおろして持っているM60を撃ちもしない。代わりに周りの生徒たちがおのおの敵に向けて反撃を始めた。 俺もそれに続くように迫るシェルエット人間に向けて発砲を始める。だが―― 「だめだ……!」 敵がどんどん増えて、数人どころか数十人にふくれあがったのを見れば、つい絶望もしたくなる。 やはり古泉の言うとおり、鶴屋さん小隊を襲撃した連中はただのおとりで、本隊が北部に陣取ってやがったんだ。 そして、俺たちはまんまと誘い込まれてしまっている。そう考えたとたん、自然と身体が引き返せと悲鳴を上げ始めた。 「後退しよう! 負傷者を連れて行け!」 撃たれて倒れている阪中たちを別の生徒たちが引きずり始めた。俺はそれをカバーするように 迫る敵に向けて撃ちまくる。そのうち一発が敵に命中し、まるで液体が始めるように飛び散って消滅した。 確かに鶴屋さんの言うとおり、まるでゲームの敵を撃ったぐらいの感覚にしかならない。 俺たちはそのまま数十メートル後退する。その間にまた一人の生徒が肩を撃たれた。これで3人目だ。 「下がれ下がれ!」 俺はわめくように指示を出す。だが、今度は二人の生徒が背後から撃たれた。そう背後からだ。間違いない。 なんで俺たちが通ってきた方から銃弾が飛んでくる!? 「後ろにも敵がいるよ!」 「どーするんだよ、囲まれちまっているぞ!」 未だに健在な国木田と谷口が大声を上げた。まずい。やばい。どうすりゃいいんだ!? 「伏せるんだ! みんな、伏せろ!」 思ってもいない声が俺の口から飛び出した。一斉に全生徒が茂みに隠れるように地面に伏せた。 すぐ頭上に弾がヒュンヒュンとかすめていく。もう一歩遅かったら蜂の巣立ったかもしれん。 背面の敵はこっちを狙撃するように動かずに撃ってきているが、前面――北側の敵は遠慮なくつっこんできていた。 このままでは皆殺しにされる。 「谷口! M60をこっちに置け!」 俺の指示に谷口は俺のすぐ横にM60を置いて撃ちまくり始めた。 「このやろ! 死ね! くるんじゃねえ!」 情けない声を上げつつも、突撃してくる敵に次々と命中し、黒い影が飛び散りまくる。 一方、俺の背後では国木田が小隊の背後にいる敵に対処していた。 「手榴弾を投げるよ!」 ピンの抜かれた手榴弾が宙を舞い、背後の敵を吹き飛ばした。同時に銃撃が収まったのをみると、 背後にいた奴は仕留められたらしい。さらに、前面から突撃してきた敵はM60の乱射を恐れたのか、 じりじりとこちらの視界外に引き始めた。何とか急場をしのげたようだな。 だが、国木田はほっとする様子もなく、俺の元に駆け寄って、 「キョン! のんびりしている場合じゃないよ! 第2波が来る前に砲撃の支援要請をしないと!」 くそ、国木田の方が指揮官みたいじゃないか。今からでも変わってくれないか? いや、そんなことはどうでもいい。 俺は引きずられてきてぴくりともしない阪中から無線機を取ると、ハルヒに――いや、そんな暇はない。 長門に直接指示しないと! 「長門! 聞こえるか!」 『聞こえている』 通信機は無事のようだ。俺は胸ポケットから地図を取り出すと、 「今から言う座標に向けて砲撃を頼む!」 俺は俺たち周辺の座標を伝えると、 『わかった。砲撃を開始する』 「ああ、頼む! こっちは包囲されて孤立状態だ!」 通信を終えたときに、ちらりと阪中の目が俺の視界に入った。 地面に突っ伏したまま、けっして瞬きしない。もう死んでいる…… ――あのね、お願いがあるんだけど。 ――涼宮さん、誘ってほしいんだけどね。 ――球技大会。だって、涼宮さん、すごいスポーツ万能じゃない。 前日、あった阪中との会話が脳裏にフラッシュバックしたとたん、俺は胃のものをすべてリバースしてしまいそうになった。 何とかぎりぎりのところで押さえ込んだが、全身に走る悪寒と鳥肌はやみそうになかった。 何を悩んでいる? 俺があのときとっとと逃げる敵を撃っておけばこんなことにはならなかっただろ? でも、これはゲームだ。仕掛けたものの言うとおりに勝てばいいじゃないか。そうすれば元通りさ。 大体、この阪中が俺の知っている阪中とは別人かもしれない。だから、罪悪感なんて持つことはない。 持つことなんてないって言っているだろうが! 「――キョン! 大丈夫!? しっかりして!」 いつの間にやら国木田が俺の肩をさすっていた。全身汗だらけになっていることにも気がつく。気色わりい。 「あ、ああ、大丈夫だ――大丈夫……」 のどからひねり出される俺の言葉を聞けば、誰も大丈夫じゃないとわかるだろう。しっかりしろ、俺! 今までだって、朝倉にナイフで刺されたり、朝倉にナイフでぐりぐりされただろうが! 「ああああっ! キョン、また敵がこっちに近づいてきたぞ!」 谷口の悲鳴とともにまたM60が火を吹き始める。見れば、また懲りもせず前方からシェルエット軍団が 突撃を敢行し始めていた。当然、銃を乱射しながらだ。 しかし、ここで長門のきわめて正確な砲撃が始まった。シャァァァという空気を切り裂くような音とともに、 俺たちの周囲が次々と吹き飛び始める。轟音で耳の鼓膜がはじけそうになった。 「撃ち方やめ! 撃ち方やめ! おい谷口! やめろっていってんだろ! 弾を無駄にするな!」 こっち大火力で突撃して来る敵はほとんど吹き飛び、俺たちのところに到達できる奴は一人もいなかった。 ならば、こっちはしばらく見物していた方が良い。 「今の内に負傷者の手当をするんだ! 残りは残弾の数を数えておけ!」 その間、徹底的な砲撃を受けた敵はさすがに堪えたらしい。次々と北側に引いていくのが確認できた。 頼むからもう来ないでくれよ。 俺はまた長門に――すまん、阪中。また借りるぞ――連絡して砲撃を停止させる。 続いてハルヒに連絡だ。 「おい、ハルヒ聞こえるか?」 『何よ、こんなときに! こっちは大騒ぎよ!』 返ってきたハルヒの声は、植物園がどんな状況かすぐにわかるようなものだった。無線機越しに、 銃声音やら爆発音がひっきりなしに飛び込んでくる。 『敵よ敵! 辺り一面囲まれているわ! 鶴屋さんも同じみたい! 完全にしてやられたわ!』 ああ、また撃たれた! 衛生兵! そっちで怪我した人を見てやって! 古泉くんの部隊はまだ来ないの!?と 俺に向けてではない声も入ってくる。やばい。ハルヒの方も襲撃されているのか。さらに鶴屋さんもだと? 学校まで攻撃されている訳じゃないだろうな? 『それは大丈夫だって有希が言っていたわ! 今のところ、戦闘が起こっているのは北山公園内だけみたい!』 そうか、それなら当面は俺たちだけの問題だ。 「こっちも囲まれて数人がやられたが、長門の砲撃で何とか撃退できたようだ。 あと、鶴屋さんが言っていた20人ぐらいはとっくに倒しているが、まだまだ敵がいそうだ。 これじゃ、いくらやってもきりがないぞ。これからどうすりゃいい?」 『とにかく、古泉くんの言ったとおり罠だったんだから、引き上げるのよ! だから、早く戻ってきなさい!』 明確でわかりやすい。短絡的とも言えるが、今はありがたかった。 俺は国木田と谷口を呼びつけ――なんだかんだでこいつらが一番話しやすい――、 「おい、植物園まで戻るぞ。今すぐにだ。無線機を誰かに持たせないとな」 「負傷者は?」 国木田の言葉に俺は即答する。 「決まっているだろ。引きずってでも連れて行く」 「なら、死んじゃった人は? すでに4人死んでいるよ」 続いて飛んできた質問に俺は息をのんだ。辺りを見回すとけが人5名、死者4名の状態だった。 なら、無事な生徒は残り21人。けが人だけなら運べないこともないだろうが、死者を含めると、 ほとんど運ぶだけで部隊全体がいっぱいいっぱいになる。 俺はもう冷たくなりつつある阪中を見る。そして、 「死んだ奴はおいていく。落ち着いたらあとで戻って回収する。場所はきちんと地図に記してな。 戻ってこれるのかなんていうな。絶対にだ」 俺の声に反論する奴はいなかった。なんて薄情な奴だなんて言わないでくれ。 今は生きている奴を助けるだけで精一杯なんだ。 俺は無線機に向かって、 「ハルヒ。これから俺たちはそっちに戻る。時間はかかるだろうが、努力はするぞ」 『キョン! 戻ってこれそうなの!?』 「わからんが、やれることはやるつもりだ」 できるとは言えなかった。情けない。俺がこんなにだめな奴だったとは、正直ショックだ。 『……キョン。これだけは言っておくわ』 ハルヒの決意じみた声。そして、続く。 『こっちもひどいけど、絶対にあんたたちを見捨てない。どんな手を使ってもここを死守するわ。 逃げない。約束する。だから――』 俺にはハルヒが次に何を言うか、予測できた。だから、無線機を小隊の生徒たちに向けた。 『全員帰って来いっ! 絶対に!』 ◇◇◇◇ 俺たちはじりじりと慎重に植物園に向けて移動を始めていた。途中、何度も襲撃を受けたが、 その度に長門からの支援砲撃を要請し、ある時は谷口や他の生徒たちの活躍で撃退することができていた。 しかし、来た道とは違い、帰りはとんでもなく時間を食ってしまっていた。もうすでに12時を越えようとしている。 さらに、移動の間に負傷者が死者に変わり、また新たな負傷者が発生していた。すでに半数以上が負傷、あるいは死亡している。 「またさっきの負傷者が……」 国木田が沈痛な表情で報告に来た。これで死者は13名になった。置き去りにした生徒と言ってもいい。 大丈夫。これはゲームだ。勝てば元通り元通り…… そう俺は自分に暗示をかける。俺には生徒の死を受け入れるような頑強で器の広い心なんて持っていない。 だから、死者が増えるたびに自分に暗示をかけるようにこの言葉をつぶやき続けた。 でなけりゃ、無能な自分が許せなくなるからだ。 「あと、100メートルぐらいだろ。とっとと走っていこうぜ!」 目前まで迫った植物園に俄然焦り始めたのは、唯一の普通人、谷口だ。弱気な言動が多いのに、 なんだかんだでこいつのM60には助けられっぱなしだが。 「まあ、焦ることはないと思うよ。もうちょっとでつくんだからさ」 「そうだな。今まで通りのペースで行くぞ」 俺たちは移動を開始する。確かにもうゴールは目の前だから、はやる気持ちが沸々と俺の頭にも沸いてきた。 だが、敵もそれを阻止しようと必死だ。シェルエット野郎が数名襲ってきた。 「俺がしんがりをつとめる! 先に行け!」 もともと銃の扱いは頭の中にたたき込まれていたが、ここに来ていい加減慣れてきたのだろうか。 俺の射撃の命中率もかなり上がっていた。もっとも敵が物陰にも隠れようとせず、 ひたすら銃を乱射しながら突撃というワンパターンなため、簡単に命中させられているだけなんだが。 また、数名をシェルエットを飛散させると、先行して移動した小隊に戻る。見れば、植物園の建物が 木々の隙間から見えるほどまでに近づいていた。 「ここで、きちんとどこから戻るか伝えておいた方が良いよ。間違って攻撃されるかもしれないしね」 相変わらず冷静な国木田のアドバイスが飛ぶ。こいつとは腐れ縁みたいなものだが、こんなことが得意だった覚えはない。 俺たちと同じように相当頭の中をいじられているようだな。 俺は無線を持たせた生徒から無線機を受け取ると、 「ハルヒ。もうすぐそばまで戻ってきたぞ。北側から植物園に入る。間違って銃撃しないでくれよ」 『わかったわ。そこを守っているのは古泉くんだから、伝えておく』 なんだ。結局古泉もこっちに来ているのか。結局総動員だな。 「よし移動するぞ。もう少しだからな」 「ひゃっほう! これでうっとうしい森の中からおさらばだぜ!」 俄然やる気を取り戻した谷口に笑顔が戻る。まあ、それで終わりって訳じゃないが、 こんなところにいるよりかは幾分かマシだろうな。 木々を分けて移動を開始する。数メートル進むと、森との境に陣取っている古泉の小隊が見えた。 向こうもこっちに気がついたらしい。右手を挙げて、来てくださいと合図している。 その刹那、俺は右手に一人だけのシェルエット野郎がいることに気がついた。 向こうは目がないので、視線があることはないだろうが、俺ははっきりと悟った。今にもその構えたAKから弾丸が撃たれ、 俺に命中すると。 だが、ここで偶然なことが起こった。そうこれは偶然だ。突然、うきうき足で走る谷口が俺と敵の間に割り込んで来たんだから。 「谷口っ――!」 越えも間に合わず、俺の縦になるように谷口の上半身に2発の弾が命中した。貫通した弾はぎりぎりのところで 俺には当たらず背後に去っていった。まるで一連の事がスローモーションのようにはっきりと見えた。 そう、谷口が撃たれたのだ。 谷口を撃ったバカ野郎はすぐに国木田が始末した。俺はそんなことにかまわず谷口を引きずり、 古泉の部隊の場所に連れ込む。とにかく、古泉との再会は後回しだ! 「おい谷口! 大丈夫か! しっかりしろよおい!」 痛みのためか、谷口はうなるだけだった。ちくしょう! やっとここまで戻って来れたってのに! 「キョン、また敵が攻撃をしてきた。ここじゃまずい。ここは僕らが食い止めるから、谷口を涼宮さんのところへ」 俺の隣に飛び込んできた国木田がそううなずく。少し離れたところにいた古泉も任せてくださいと いつものスマイル声で言ってきた。すまねえ! 俺は谷口を背負うと、全力でハルヒの元に向かった。とにかく、トラックに乗せて学校に戻してやりたい。 そうすれば、きっと助かる。助かるに決まっているさ! 「へへっ、思ったより痛くないもんだな……」 背中から谷口の声が俺の耳に届く。 「痛いだろ。もうちょっとの辛抱だ! だからがんばれ!」 「痛くねえよ……ただ、あつくてたまらないけどな」 俺の背中にだらだらと血がしみこんでくるのがはっきりとわかった。もう痛みすら認識できないのか。 こんな中で、今まで俺がごまかし続けてきた言葉が浮かぶ。これはゲームなんだ。勝てばいい。勝てば元通り。 この世界で誰かが死んでも大したことはない―― 「そんなわけねえだろうが!」 俺は言うまいと思っていた言葉を口にしてしまった。ゲームだろうが何だろうが、谷口は今まさに死のうとしている。 これが現実だ。いまはっきりと起こっていることなんだよ! 何をどういっても否定のしようがないんだよ! 「キョン、俺がんばったよな。何度もお前を助けたし……」 「ああっ! おまえはすげえよ。何度もみんなを助けたんだ。誇りに思っていい!」 「これであの子も俺を見直すだろうな。振ったことを後悔させてやるぜ……」 「そうだな! だから、もう少しだ!」 もう俺は泣き出しそうだった。むしろ、どうして泣き出さないのか不思議なくらいだった。 「頼むぜキョン、ここでの俺は勇敢だったってみんなに伝えてくれよ……」 「自分で広めればいいだろ! そんな弱気なのこと言うな! 死ぬな死ぬな死ぬな!」 俺の必死の呼びかけにも関わらず、谷口がそれ以降言葉を発することはなかった。 ◇◇◇◇ 「キョン、谷口の遺体は学校に向けて搬送したわ……」 「……そうか。ありがとな、ハルヒ」 俺は声をかけてくれたハルヒに振り返りもせず、呆然と植物園の入り口付近に座り込んでいた。 谷口は結局死んでしまった。同時に俺の肩に14人分の死の乗りかかってきてしまった。 もはや、罪悪感を越えて、どうでもいいほどの放心状態だ。 しかし、一方で今後ろにいる人間に対する黒い感情が少しずつ広がっていることにも気がつく。 作戦を立てたのもハルヒだし、何よりもこれを仕組んだ者の目的は明らかにハルヒだ。 谷口や学校の生徒たちが死ぬ必要なんてない。大体、古泉が罠だって指摘していたじゃないか。 罠だとわかったからと言ってそんな簡単に引き返せるわけもないんだ。 「谷口は友達だったんだ。悪友だったけどな。普段はいてもいなくても、なんて考えたりしていたけど、 いざこうなると初めてどういった存在だったのか、よくわかったよ」 「ゴメン……なんて言っていいのかわからない」 ハルヒのしょぼくれた声に、一瞬で俺は正気を取り戻した。何を考えているんだ、バカバカしい。 仕組んだ者の目的がハルヒであっても、これはハルヒが望んだわけじゃない。ハルヒだって被害者だ。 それに作戦を立てて賛同した中には俺もいたじゃないか。ハルヒ一人を責めるのは明らかに間違っている。 俺だって同罪だ。 「なあ、ハルヒ」 「……なに?」 「俺、絶対に負けないからな」 やるしかない。やけにもならずに冷静にやるしかない。それでいい。 「うん……絶対に負けない、あたしも」 ハルヒの声もすっかり元気がなくなっていた。ちくしょう、これを仕組んだ奴はハルヒのこんな姿が見たいってのか? 「そんな声を出すなよ、中佐殿。不安になるだろうが」 「わ、わかっているわよ……! 当たり前じゃない! 絶対に負けない!」 少しムキになるところを見てほっと一安心。まだハルヒらしさが残っているようだ。 俺はようやくハルヒの方に振り返って――このときに見たハルヒの歯を食いしばるような表情は早々忘れないだろう。 と、ハルヒの迷彩服の肩の辺りの色が変わっていることに気がつく。大量の血が付着しているようだった。 「それ、大丈夫か? どこかやられたんじゃないだろうな?」 「え、ああ、うん、大丈夫。自分の血じゃないから。さっき負傷者を背負ったときについたんだと思う」 ほっと胸をなで下ろす俺。たのむぜ、団長殿。お前がやられたら終わりなんだからな。 俺はヘルメットをかぶり直し、 「また、戻る。鶴屋さんを助けに行かないとな」 そう言って俺は戦場に戻った。とびきりの作り笑顔をハルヒに見せてから。 ~~その3へ~~
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基本情報表紙 タイトル色 その他 目次 裏表紙のあらすじ 出版社からのあらすじ 内容 あらすじ「プロローグ」 「第一章」 「第二章」 「第三章」 「第四章」 「第五章」 「第六章」 「第七章」 「エピローグ」 挿絵口絵 挿絵 登場人物 後に繋がる伏線「第五章・第六章」(伏線) 「第七章」(伏線) 「エピローグ」(伏線) この巻にて回収した伏線「プロローグ」(回収した伏線) 刊行順 基本情報 涼宮ハルヒシリーズ第7巻。2005年9月1日初版発行。 表紙 通常カバー…朝比奈みくる 期間限定パノラマカバー…橘京子、谷口 タイトル色 通常カバー…青 期間限定パノラマカバー…紫 その他 本編…422ページ 形式…長編 目次 プロローグ…P.5 第一章…P.58 第二章…P.112 第三章…P.162 第四章…P.224 第五章…P.265 第六章…P.319 第七章…P.265 エピローグ…P.401 あとがき…P.428 裏表紙のあらすじ 年末から気にしていた懸案イベントも無事こなし、残りわずかな高一生活をのんびりと楽しめるかと思いきや、 ハルヒがやけにおとなしいのが気に入らない。 こんなときには必ず何かが起こる予感のそのままに、俺の前に現れたのは8日後の未来から来たという朝比奈さんだった。 しかも、事情を全く知らない彼女をこの時間に送り出したのは、なんと俺だというのだ。 未来の俺よ、いったい何を企んでいるんだ!?大人気シリーズ怒涛の第7弾! 出版社からのあらすじ 残りわずかな高一生活をのんびりと過ごすはずだった俺の前に現れたのは、8日後の未来から来た朝比奈さん!? しかもこの時間へ行くように指示したのは俺だというのだ。8日後の俺よ、いったい何を企んでるんだ!? 内容 シリーズ中最長編の巻。この巻では、朝比奈みくるメインでストーリーが進んでいく。 時系列では、第6巻『動揺』収録の「朝比奈みくるの憂鬱」の直後となり、冒頭では『消失』での伏線を回収する回想シーンが挿入されている。 新たな伏線が多く張られる巻でもある。 あらすじ 章ごとに記載。また、ネタバレ記述があるので、原作未読の場合は注意。 「プロローグ」 +... 時は2月3日。キョンの回想から始まる。 1月2日、キョンは長門、みくるとともに12月18日へと時間遡行する。長門の行為によって変わってしまった世界を再改変するためだった…… 「第一章」 +... 節分から数日が経過した日の夕方、キョンは部室へ向かうと、掃除用具入れの中から音がする 不審に思ったキョンは中を確かめてみると、そこには朝比奈みくるがいた。みくるはキョンも一緒に隠れるようにと言い、2人で掃除用具入れに入る。 しばらくして、部室に入ってきたのはまぎれもなく朝比奈みくるであった。 みくるが2人。掃除用具入れから現れた自分は、8日後から時間遡行した未来のみくるであり、時間遡行をするように言ったのはキョンだというが…… 「第二章」 +... 学校に登校したキョンは、いつものように自分の下駄箱を開けて靴を履き替える。 だが、そこには朝比奈さん(大)からの指令書(#1)が入っていた。放課後、キョンは指令書に書かれていた道具を取りに家に帰り、 自転車で長門のマンションへと向かう。 8日後から時間遡行したみくるとともに、指令書に書かれている場所に向かう。 その後、鶴屋邸へと向かい、キョンは8日後から時間遡行してきたみくるを預かってもらえるよう頼む。 「第三章」 +... 翌日、学校に登校したキョンは、自分の下駄箱を開けて靴を履き替える。そこにはまたしても朝比奈さん(大)からの指令書(#2)が。 指令書(#2)をクリアするため、みくる(みちる)とともに鶴屋家の私有山へと向かうが…… 「第四章」 +... 翌朝、キョンは目覚まし時計を止めに来た妹によって起こされ、SOS団一行で鶴屋山へと向かう。土、日曜日の件について話すハルヒ。 解散後、キョンは帰宅し鶴屋邸に電話をすると、みくる(みちる)が電話に出て、明日の件についての話をするのだが…… 「第五章」 +... 土曜日の朝、キョンは自転車で駅前へと向かい、SOS団のメンバーでいつもの喫茶店へ。 12時に再び集合した際に再びクジを引くと、今度は長門と一緒になり、長門とともに市内図書館に行く。 中で待っていたみくる(みちる)はキョン達の元へと駆け寄る。キョンとみくる(みちる)は指令書(#3)をクリアするため目的地へと向かい、 指令書(#3)に書いてある物を探すが、なぜか見つからない…… 「第六章」 +... 日曜日の朝、キョンは自転車で駅前へと向かい、SOS団のメンバーでいつもの喫茶店に入る。ハルヒの作ったクジを引き、長門と一緒になる。 キョンは長門とともに市内図書館に行く。指令書(#4)をクリアするため、その場所へと向かう。後にみくる(みちる)と合流する。 だが、朝比奈みちる誘拐事件が起こる。みくるを誘拐した犯人を追うため、キョンは新川の運転するタクシーに乗車し、古泉、森園生とともに みくるを誘拐した車を追うが…… 「第七章」 +... キョンは長門とともに駅前に戻り、ハルヒは総員解散を告げる。 翌日、キョンは駅前に向かい、鶴屋山を登り、指令書(#2)で行った場所を掘ると、箱のようなものが出てくる。その中身は… 日没後、キョンは自転車で長門のマンション近くの例のベンチに向かう。そこには朝比奈さん(大)がいた。 だが、彼女の言っていることは、これから起こる出来事らしいが…… 「エピローグ」 +... 次の日の昼休み、鶴屋さんが1年5組の教室に来る。キョンに用事があるらしく、薄暗い踊り場にキョンを連れて話を始める。 鶴屋山にて、本物の鶴屋家の宝が出てきたらしい。 その日の放課後、ハルヒはSOS団プレゼンツをする。それは、当たりのクジを引くと、みくるから手渡しでチョコがもらえるというものだった。 だが、参加者が多かったため、いつ終わるのかも分からない。長門に情報操作をしてもらったキョンは、みくるの手を引っ張ってを部室に連れて行き、 時間遡行をするように頼む。 8日前に時間遡行したみくる。少ししてから再び、掃除用具入れの中から音が聞こえる。そこに登場したのは…… 挿絵 口絵 涼宮ハルヒ、朝比奈みくる、長門有希、古泉一樹(プロローグ) ⇒ 朝比奈みくる(みちる)(第一章) ⇒ キョン、長門有希(第一章)、朝比奈みくる(みちる) ⇒ 長門有希、朝比奈みくる ⇒ 挿絵 「プロローグ」 P.57…SOS団 ⇒ 「第一章」 挿絵なし 「第二章」 P.143…朝比奈みくる(みちる)、鶴屋さん ⇒ 「第三章」 P.197…涼宮ハルヒ、キョン ⇒ 「第四章」 挿絵なし 「第五章」 P.291…未来人 ⇒ 「第六章」 挿絵なし 「第七章」 P.381…涼宮ハルヒ、朝比奈みくる、長門有希 ⇒ エピローグ 挿絵なし 登場人物 涼宮ハルヒ キョン 長門有希 朝比奈みくる(=朝比奈みちる) 古泉一樹 鶴屋さん 朝比奈さん(大) 谷口 国木田 キョンの妹 森園生 新川 多丸圭一 多丸裕 シャミセン ハカセくん 未来人 誘拐少女 後に繋がる伏線 「第五章・第六章」(伏線) 対立組織の登場・目的 ⇒第9巻『分裂』にて半分回収 「第七章」(伏線) 朝比奈さん(大)の言う「とても強力な未来」 ⇒未回収 「エピローグ」(伏線) 鶴屋山で発掘された謎のオーパーツ ⇒未回収 この巻にて回収した伏線 「プロローグ」(回収した伏線) 第4巻『消失』にて、もう一度12月18日に時間遡行しなければならないこと ⇒長門の行った時空改変を元通りに戻す 第4巻『消失』にて、ハルヒの見た謎の少女の正体 ⇒長門有希 刊行順 <第6巻『涼宮ハルヒの動揺』|第8巻『涼宮ハルヒの憤慨』>
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涼宮ハルヒのOCGⅠ いつもの通り、SOS団は平凡な日常を送っていた。ハルヒはパソコンの前でマウスをせわしなく動かしながら何事かやっていて、長門は黙々と読書、朝比奈さんは最近買ってきた茶の葉についての本を読んでいる。というか朝比奈さん、そんなに一生懸命お茶について勉強しなくてもいいですよ。 ちなみに俺と古泉はいつもの通りゲーム・・・といっても最近はカードゲームだ。小学生の時に流行った○戯王ってやつでな、オセロやチェスにもいい加減飽きたのでここ2週間ぐらいはこれをやってるというわけだ。 「では、手札から緊急テレポートを発動します。デッキからクレボンスを特殊召喚して、フィールドの星3モンスターとシンクロ、マジカルアンドロイドを特殊召喚します。」 おっと、そうはさせるか。特殊召喚時に奈落の落とし穴を発動するぞ。何かチェーンはあるか、古泉。 「残念ながらありません。カードを一枚伏せてターンエンドです。」 そうか、なら俺のターンだな。えー墓地には風属性が2体、闇が3体・・・と、いけるな。墓地の風闇を除外して手札からダーク・シムルグを特殊召喚、んで手札からハーピィクイーンを通常召喚、魔法カード死者蘇生を発動、対象は古泉の墓地のクレボンス。6シンクロで召喚するのは・・・氷結界の龍、ブリューナク。手札を一枚コストにしてその伏せカードをバウンスだ。チェーンするか? 「いえ、残念ながらできませんね」 ならバトルフェイズ、ブリューナクとダルシムで攻撃だ、全部通れば俺の勝ちだが、どうだ? 「僕の負けです。いやはやあなたは強いですね。これで7連敗です。」 いやどうみてもお前が弱すぎるんだろ、古泉。というか構築が悪い。いくら自分が超能力者だからってサイキック族ばっかいれればいいってものでもないぞ。パイプ椅子によりかかりながら大きく伸びをしたとき、ふいに長門と目があった。読書は終わったのだろうか。珍しいこともあるものだ。どうした?長門。 「どういったゲームをしているのか気になった」 長門が気になるなんて珍しいな。コンピューター研との勝負の時もそんな雰囲気をまとってたっけか。ルール教えてやるからやってみるか? 「そうする」 長門に説明している(といっても30秒ほどだが)と、いきなりハルヒが声をかけてきた。どうやらこいつにも長門が何かに興味を持つことは珍しいと感じたらしい。 「有希が興味持つなんて珍しいわねえ・・・。ねえキョン、古泉君。あたしにもルール教えなさいよ」 今俺は長門に教えてるんだ。古泉、任せるぞ。 「承知しました。では涼宮さん、ご説明しましょう。まずこの山札をデッキといいまして・・・・」 まあハルヒも行動は常軌を逸しているが勉強はできるし頭もいい、10分ほどで大体把握したようだ。長門?俺が説明して1分ほどで終わったよ。俺がわざわざ説明する必要あったのかね。 ハルヒと長門がデュエルをしてる様子を(デッキは俺と古泉のを貸してやった)朝比奈さんのお茶を飲みながら眺めていた俺と古泉だったが、どうやら長門だけでなくハルヒも○戯王にはハマったらしい。結局今日は朝比奈さんに時間を言われるまで誰も帰ろうとしなかったな。 「あ~あ、もっといろんなカードないのかしら?古泉君、○ナミの知り合いっていたりしない?」 学校からの帰り道、ハルヒが不満そうな顔をしながら言った。ちなみに今日古泉の(構築目的不明の)デッキを使っていたのはハルヒだ。 「残念ながらすぐには思い当たりませんね。今日帰宅したら調べてみます」 さすがに機関といえどもカードゲーム会社の伝手はなかったようだ。まあそりゃそうだわな、高校生にもなった俺たちが今更カードゲームをやるなんて誰も思わんだろう。 「あたしも今日帰って少し調べてみようかしら」 しかし本当に珍しいな、ハルヒが突発的に何かに興味を持つのは珍しいことではないが、大抵は一日かそこらで終わるものだ。この調子だと明日も放課後はデュエルになるかもな。 翌日、掃除当番+岡部の呼び出しでかなり遅めに部室に行った俺は驚愕した。部屋の片隅には山のようにダンボールが積み上げられ、机の上には大量のカード、そして奥ではハルヒと長門がせわしなくデュエルを続けている。 「いくわよ有希!剣闘獣ラクエルとベストロウリィをデッキに戻して、剣闘獣ガイザレスを特殊召喚! フィールド上のライラとガロスを破壊するわ!何かチェーンある?」 「ない」 「じゃあガイザレスでダイレクトアタック!」 おいおいなんだこの異様な光景は。朝比奈さん、いったい何がどうなったんですか? 「えーっと、昨日古泉君の機関に、カードを大量に売りたいって人から電話があったらしくて・・・」 それでここにあるのは全部そのカード、というわけですか。まあ新品じゃないから傷ありのものが多いがそれでも一枚数千円するような代物もある。 「長門さんが情報操作で作ったカードも半分くらいはいってるみたいです」 長門、それはどう考えても情報操作の無駄使いだぞ。 「私のターン、メインフェイズに手札から大寒波を発動。チェーンは?」 「ないわ」 「そう。墓地のライトロードはライラ・ライコウ・ルミナス・ガロスの4種類、手札より裁きの龍を特殊召喚。効果発動、1000ポイントのライフを払い、このカードを除く全てのカードを破壊する。」 ハルヒも長門も昨日ルールを覚えたやつとはとても思えないほど、デッキ構築もプレイングも向上している。いったいどうやったら一日でこんなに上手くなるんだ? 「二人とも、昨日は遅くまで調べてたらしいですよ」 朝比奈さんがお茶を淹れながら言った。やれやれ、そんなに面白かったのかね昨日のデュエルは。 「おっと、あなたもいらしていましたか。」 部室のドアをあけながら片手にダンボールを抱えた古泉が入ってきた。朝比奈さんから聞いた話だが、あれは本当なのか? 「ええ、我々の方でも想定外でしてね。機関の方で把握できなかった動きとなると、やはり涼宮さんの能力、ということになるんでしょうね。」 なにがやはり涼宮さんの能力、だ。というか機関はこんなにカードを買って財政的に大丈夫なのか。 「去年の孤島での費用の二十分の一です。安いものですよ」 古泉はニヤニヤしながら言った。ダンボールの中身はデッキケースとデュエルフィールドだったらしい。 「どうです?あなたもデッキ構築しますか?」 ああ。悪いがやらせてもらうぜ。ハルヒの能力が俺にプラスに作用することなんて滅多になさそうなんでな。 「あ、キョン君。デッキ組んだら私とやりましょうね?」 え、朝比奈さん。未来でもこんなことやってるんですか?というかデュエルできるんですか? 「この時間軸の何倍も流行ってますよ。それ以上は・・・禁則事項です」 朝比奈さんの言うとおり未来でも○戯王が流行ってるとしたらどんな風にやってるんだろうか。まさかバイクに乗って・・・・そんなわけないか。 「死者転生を発動。手札を一枚捨てて墓地から裁きの龍を回収。召喚条件を満たしているので特殊召喚。起動効果、コストを払って全体除去を・・・」 「甘いわ有希!効果発動したときに罠発動!剣闘獣の戦車」 「・・うかつ」 ハルヒと長門は相変わらず白熱している。まあ、たまにはこういうのも悪くないかもな。よし、朝比奈さんやりましょうか 「はあい。」 END
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涼宮ハルヒの切望Ⅵ 「うそ……」 あたしは茫然自失と呟いていた。 宇宙人の有希なら何とかできるんじゃないかと思ってた…… だって、前に有希は『自分はこの銀河を統括する情報統合思念体に作られた存在』って言ってたんだから…… 太陽系って言わなかったからもっと広い宇宙を統括しているなら、あたしには理解不能の宇宙人的パワーがあるだろう、と考えたから…… 「『異世界』とは『宇宙空間』も含めての世界を指す……この世界でさえ、この惑星の人類の理解能力をはるかに超える広さがあるのが『宇宙』……むろん、それはわたしも例外ではなく、この惑星が存在する銀河であれば対処可能でも、この銀河の向こうにどれだけの銀河があるのかは見当もつかない……そしてこれが『この世界』……こういう世界がどれだけあるかはわたしにも不明……つまり……わたしにも彼がどの異なる世界に移動したのかを特定するのは不可能……」 あたしの耳は有希が珍しく悔恨に声を震わせているにも関わらずほとんど聞き取れていなかった。 ぴろりろぴろりろ 妙に軽やかな電子音が届く。 「失礼、どうやら僕のようです」 古泉くんが先ほどまでの危機感を募らせた表情から、どこか絶望の表情に変化してこの部屋を出たような気もしたけどそんなこと気にする余裕もない。 ――ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたらあたしのところに来なさい―― あたしは一年の入学式の日、クラスに向かってそう宣言した。 あの時はただ漠然とそういう存在に会いたいと思っていたけど…… 宇宙人、未来人、超能力者は『この世界』で存在するのかもしれないけど…… そう言えば、あの時、あの世界で出会ったあの人も言っていた…… ――再会できる可能性は皆無に等しいんだから異世界に生きる私のことなんて覚える必要はないわよ―― あの言葉は異世界の広大さを如実に端的に的確に表した言葉だったんだ…… なのにあたしは…… 「ひ、ひあ! 嘘!? そんな!」 みくるちゃんが何か悲鳴を上げている。 でもいったい何が起こったかなんてどうでもよかった。 あたしの心と頭はたった一つの絶望的な答えに占められていたから…… ……もう……キョンには会えない…… 世界が崩れていくような錯覚すら起こす。 すべての色彩を失い、歪んでさえ、ひび割れてさえ見えるんだから…… …… …… …… それでもいいかな……キョンがいない世界なら…… 壊れちゃってもいいかな…… 「たった一つだけ対処方法がある」 何か決然たる意思のこもった声が聞こえた気もした。 でももうどうだっていい…… 「涼宮ハルヒ! 絶望するのはまだ早い!」 ――!! さすがに意識が覚醒した。 なぜならこんな語気を強めた声を彼女から聞いたのは初めてだったから。 「有希……」 あたしは、まだどこか虚ろな瞳だったろうけどその声の主に視線を移す。 「な、長門さん……?」 みくるちゃんが半べそかいたまま、それでもさっきまでの焦りの表情が沈静化していた。 「朝比奈みくる」 「は、はい」 今度はみくるんちゃんに呼びかける有希。 「今すぐ未来と回線を開いてTPDDの使用許可を」 「え……?」 「心配ない。必ず許可される」 「は、はい……!」 有希の、まだ決然たる口調の促しにみくるちゃんが即了承。 しばしの沈黙があって、 「で、出ました! TPDDの使用許可! それで長門さん! あたしはどの時間平面に飛べば……! って、そうですね! キョンくんが消えてしまった日の時間ですね!」 そうよ! それならキョンが消失する前にこっちに連れてくればいいんだから! よく考え付いたわね! 有希! 「違う。過去に移動するのではなく、わたしが――我々が必要とするのはあなたが持つTPDDの『時空間を超える力』」 って、あら? 「涼宮ハルヒ」 有希が再びあたしを呼ぶ。それも見たこともない真剣な瞳で。 「わたしはひとつあなたに誤解を与えた。陳謝する。最初からこう言えばよかった。これを思いつかなかったのはわたしのミス」 謝罪なんていらないわよ! どういうことよ! 有希が続ける。 「わたしという個体単体では彼を見つけ出すのは不可能。しかし、涼宮ハルヒ、朝比奈みくる、古泉一樹、そしてわたしが協力体制を敷けば不可能ではない――」 文芸部室は衝撃の沈黙に支配された。 刹那のような永遠の沈黙。 それを打ち破ったのは、やっぱり有希。あたしの瞳をまっすぐに見つめながら、 「わたしたちはもう一つ、あなたに隠蔽していた事実がある」 隠蔽? わたしたちってことはもしかしてキョンは知ってるってこと? 「そう。それは古泉一樹について」 古泉くん? 「彼には通常、この惑星の有機生命体を構成する六感を超えた能力が存在する。端的に言うならばESP」 ESP!? それってもしかして……! 「そう。古泉一樹には超能力がある。その能力は特定の異空間に侵入できること」 有希の説明にあたしは絶句した。 あたしが望んだすべてがもうすぐ傍にあったなんて……しかもそれも一年以上前から……それに気付かなかったなんて…… そう言えばキョンが以前、そういう風に教えてくれたような気がしないでも…… でもまあそれはいいわ! 古泉くんに異空間に入り込める力があるならいろんな異世界に行ってもらってキョンを探して来れるじゃない! 「ううん。それ無理」 あれ? なんか有希の口調が今までの有希じゃないような…… 「先ほども言ったが古泉一樹が入る込めるのは特定の異空間のみで、さらに言うなら、あなたが『キョン』と呼ぶ彼がどの異世界に居るのかが特定できないから」 気のせいか。 だって続けた有希の言葉は、今は強い意志を感じるけど、それでも口調はいつもと変わんないし。 「じゃ、じゃあどうやってキョンの場所を?」 「それを今から説明する」 あたしの問いかけに有希が呟くと同時に古泉くんが戻ってきた。 あたしたちは文芸部室のちょっとした模様替えをした。 と言ってもまあ、そんな大したことじゃないけど、まず、いつもキョンと古泉くんがボードゲームに興じている会議用机を廊下に出したの。 ふうん。あの机がないだけでこの部屋、結構広く感じるものね。 それともう一つはあたしの団長机のパソコンを窓側ではなくて廊下側に向けること。でも机の位置は変えなかった。 んで、ついでに言うなら、あたしが考案した芸術的価値が高そうなエンブレムがあるってのにレイアウトがあまりにショボイのでアクセスする人がほとんどいないキョンが作ったSOS団のホームページのトップをこちらに向けている。 どういう意味があるんだろう? 「次はわたしたちの立ち位置」 有希が指示を出す。もちろん、あたしも含めてそれに従った。 団長のあたしを差し置いて、なんて言うつもりはないわよ。だって、有希はあたしたちの知らない何かを知っている。んで、それは有希にしかできないことなんだから、しゃしゃり出るつもりなんてないわ。 「涼宮ハルヒは私の正面に立つ。朝比奈みくると古泉一樹はわたしから90度ずれて展開し、涼宮ハルヒとわたしの中間地点からの我々と同じ距離を取って」 「ここですか?」「ふ、ふえ? 合ってます?」 古泉くんが真剣な表情のまま、でも声には多少の余裕が出てきたみたい。 みくるちゃんにも少しだけいつもの雰囲気が出てきたわね。 「多少の誤差は許容範囲。概ねその位置でいい」 有希が言う。 とどのつまりあたしたちは4人で十字を切って正方形を作っている。 そう言えば、有希はさっき、あたしも含めて協力って言ってたけど、あたしは何をすればいいんだろう? などという疑問があたしに浮かんだんだけど、問いかける前に有希が続ける。 あたしの瞳をまっすぐ見つめて、 「あなたは彼のことだけを考えてほしい。あなたの思考が彼に届くことによって彼の今いる世界とこの世界に一筋の道ができる。それを利用して古泉一樹の異空間に侵入する能力、朝比奈みくるの時空間を超える能力を私の情報操作で連結し、我々の中心に力を集中させて彼をここに帰還させる」 ――!! そ、そんなことが可能なの!? 「理論上は可能。ただし――」 ただし? 「絶対という保証はなく、また成功するという保証もできない。ただ単に可能性は0ではないというもの」 ……つまり0.の後に限りなく0が続いて最後が1って可能性なのね…… でもまあいいわ。 だからどうだっていうのよ。諦めるよりは数百倍マシなんだから。諦めてしまえば0になるけど諦めないなら0じゃないんだから後者に賭けるまでよ。 「それを聞いて安心した。この国のことわざにもある『乙女の祈りは天に通ず』、それを信じてあなたは彼に思いを届けるんだという気持ちを持ち続けてほしい」 ん? あたしの目の錯覚かな? 今、一瞬、有希が小さく微笑んだような…… と言うか、『乙女の祈りは天に通ず』ってのはことわざじゃなくて某ライトノベル作家が好んで使うような慣用句みたいなものじゃなかったかしら? え? それは誰かって? そうね、確か角川スニーカー文庫でも何作か出していると思うけど、谷○流先生じゃないことだけは確かよ。もっとも出身の県は同じみたいだけど。 って、今はそんなどうでもいいことは置いといて。 「では始める」 有希が瞳を伏せて、何やら早口で言っているしね。 と同時に、 「ひあ!?」「これはこれは」 みくるちゃんの狼狽悲鳴と古泉くんの興味深げな声が届く。 まあ仕方ないわね。 なんせ、有希、みくるちゃん、古泉くんから光のようなものがいきなり立ち上ったんだから。 って、あたしはここから祈ればいいのかな? などと思いつつ、手を胸の前で合わせて、 キョン…… あたしは、ありったけの思いを込めて、そして是が非でもあいつに声を届けたい気持ちを込めて心の中で呟き、 ――!! 見ればあたしたちの中心に光の靄がかかってきてるし! 「それが異世界への扉。あとはこの光の靄が次元断層を突破できるかどうか」 有希が切羽詰まった声ではあったが、どこか期待を込めて説明してくれる。 古泉くんとみくるちゃんもまた、光に包まれたまま、その光の靄を凝視している。 キョン―― あたしは悲壮感漂う表情で、何度となくあいつに呼びかけ続けた―― 涼宮ハルヒの切望Ⅶ―side H― 涼宮ハルヒの切望Ⅵ―side K―
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天蓋領域との壮絶かつ困難なバトルの話は俺の中で整理がついた時にでもゆっくり 語ろうと思う…… 。 季節は三度目の桜がまるで流氷を漂うクリオネの姿で舞う光景を見ながら、 俺はシーシュポスの苦痛を3年間も続けたんだなという感慨にふけり、後ろを 振り返った。 北高に入り、ハルヒと対面したあの日が走馬灯のようによみがえってくる。 思えば「宇宙人、未来人、…… 」あの言葉を聞いた瞬間から俺は夢のような時を 過ごしてきたんだなとも思う。 まさに光陰矢のごとし、カマドウマにも五分の魂ってやつか…… 。 そんなこんなで今日は朝比奈さんの卒業式当日。 もちろん鶴屋さんもその満面に笑みを称え、卒業生の輪の中にいた。 「安定していますね、まさに一般人に戻ってしまった涼宮さんそのものですね。 あっ、それと僕の能力も消えてしまいました」 顔が近すぎるんだよ、古泉、あいも変わらずなぜそんなにくっついて話す 必要があるんだ? 「情報統合思念体も二次的なフレアの原因は涼宮ハルヒという生命体が持つ 内部の自己矛盾から開放されたと推測している。わたしの役目も終わりに 近づいているのかもしれない」 寂しそうな笑顔を向ける長門…… 寂しそうな笑顔? 長門、お前はいつから そんな感情を露にした表情ができるようになったんだ…… 。 「観察が終わればわたしはここから去らねばならない…… 」 その神のごとき能力を失ったハルヒは泣きじゃくる朝比奈さんと大笑いしている 鶴屋さんの真ん中で大いにはしゃいでいた。 卒業式の余興にあのバニーのコスプレでどうやら「GOD KNOWS」を 歌うらしいのだ。 もちろんSOS団内に結成したENOZⅡというバンド名なのはいうまでもない。 はしゃいでいるハルヒを俺はずっと目で追っていた。相変わらずハイテンション なハルヒ、昨日まで世界はお前を中心に回っていたといっても過言じゃないんだぜ! あの日を境にな、あの日を境にお前の能力が失われていることに気づいたのは つい最近なんだ、だが俺はなぜかほっとしている。これで、お前を、ちゃんと真正面から 見ることができるんだ。 不思議から開放されることが、いやもう二度とあの世界へは戻れないんだと してもだ、俺は心からハルヒ、お前が普通でいてくれることをありがたく思うよ。 この世界の創造主なんて役目はかわいい女の子には荷が重過ぎるだろ、違うか!? なんたって神様好きになっちゃバチが中るってもんさ、 卒業まで一年俺はこう思ってるんだ。不思議じゃない高校生活もきっといいもんだぜ…… 。 ハルヒ、告白しちゃいけないか、手をつないじゃいけないか、デートしちゃいけないか? この世界にたった一つ不思議があるとしたらめぐり合った奇跡じゃないのか? 「ハルヒ…… 俺は…… お前を…… アイシテル…… 」 了
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第六章 やろうと思えば、何でも出来るもんだ。 簡単に俺はシャミセンの体を乗っ取った。 どうでも良いが、動きづらい。 俺は、再び学校へ向かう。 今頃昼休みだろう。 途中、ある2人が目に入る。 制服を着た髪の長い女性とにやけ面のハンサムボーイ。 よく見えない。もっと近きへ行く。 「今回は、大変な仕事だったらしいね。古泉君。」 「えぇ、それは大変でしたよ。鶴屋さん。 準備から実行まで、かなりの金額と時間と労力を費やしました。 あなたの御父上には、大変なご迷惑をかけました。感謝しますよ。心の底から。」 「あたしに感謝を言われても困るよっ。見ての通り、あたしゃめがっさ怒ってるんだからね。」 何を怒ってるんだろうか。鶴屋さんは、怖いオーラを発していた。 絶対に近寄ってはならない。そんな雰囲気だった。 古泉は、顎に手をあて、顎を撫でるような格好をする。 口元は笑っているが、目は、じっと鶴屋さんを凝視している。 険悪なムードが漂う。 「こんなっ、こんなことっ許されると思ってるのかいッ!!!」 「申し訳御座いません。」 「あたしは干渉しない。いや、したくない。 でもッ!!! 行動しなきゃ、誰かを失うって初めて知ったよ。これだけは、言っておく。 誰が見ても、これは、倫理的な道程からは、外れてる。間違った行為さっ。」 「責任は取るつもりです。僕なりのね。」 「死んで詫びるなんて、言わないでよ。 それは、逃げるに他ならないんだからさっ。」 「分かりました。」 「………あたしは今から、学校に戻るよ。勉強しなきゃ。 次に誰かに手を出したら、あたしがキミを止めるからねっ。」 鶴屋さんは、走って帰って行ってしまった。 古泉は、しばらく呆けていた。 「そろそろ、僕も帰りますかね。」 「みゃー。」 待ちな、古泉。 「これはこれは、彼の家の猫。えっと、シャミセンでしたね。」 急に古泉は考えて、笑い出した。 「くっくっく、長門さんのおっしゃる通りですか。」 「みゃー。」 どういうことだ? 「申し訳ありませんが、あなたの言葉は私には、解りません。 放課後、部室へ来て下さい。全てお話しします。」 そう言うと、古泉は帰って行った。 どうやら長門は、猫である「俺」が来るのを予期していたらしい。話が早くて済む。 放課後 「みゃー。」 「来ましたね。」 校門で古泉と朝比奈さんが待っていた。 「ごごごごごごごめんなさいキョン君。何も言えなくて。」 朝比奈さんは、俺を抱きしめ、謝った。俺、一生猫のままで良いかも。 「行きましょう。長門さんが待っています。」 そのまま部室へ向かった。朝比奈さんの感触が気持ちいい。至福の時とは、まさにこのことだ。 部室へ入る。 「待っていた。」 「みゃー。」 話してもらおうか。 「分かってる。」 「長門さん。通訳をお願いします。」 「必要ない。」 長門は、俺の首に何かをかける。 「何だ?k……うぉ!?喋れる!!」 「猫用バイリンガル装置。」 「ふぇー、ドラ●もんみたいですね。」 「今回の事は、深く謝る。」 「反対勢力の暴走だろ?仕方ないさ。」 「違う。」 は? 「ユダはわたし達。全勢力があなたと涼宮ハルヒを抹殺する計画をした。」 おいおい、冗談は顔だけにしまじろう。 「な、どうして…?」 「わたしの場合は新たな情報爆発の期待。きっかけを作ったのは、わたし達情報統合思念体。 有機生命体の一般に「恋愛」と呼ばれる感情を利用し、新たな情報爆発を期待した。 しかし、失敗に終わった。彼女が情報爆発を行う機会は格段に増えたが、リスクもまた、高い。 彼女の力は落ち着いてはいるが、力自体は衰えてはいない。 むしろ、より強力な物へと変貌している。 一歩踏み違えば、地球だけではなく、宇宙空間まで被害が及ぶ。 情報統合思念体は失望し、『扉』である涼宮ハルヒ『鍵』であるあなたを抹消する方向で計画を続けた。」 「わたしの場合は未来の固定化です。今回の事件を邪魔する人の足止めをしたそうです。」 「機関の方では、最近無意識に発生する閉鎖空間の対処が不可能になりました。 神人の異常増加が原因です。進行の速さは緩やかなのですが、このままでは、いずれ世界は改変されます。 対抗策として、谷口君などを利用し、彼女の錯乱状態を抑えようとしましたが、逆に拍車を加えました。 閉鎖空間の拡大する速さが異常なまでに速く、神人の対処もままならぬ状況でした。 結果、涼宮さんを抹殺する事を上が決定しました。」 「…………」 言葉が出なかった。 俺とハルヒは、こいつらの謀略にはめられたのだ。 こんな事許せるもんか。絶対許さん。 「ごめんなさい。ごめんなさいキョン君。」 朝比奈さんは崩れ落ちるように、床に顔を伏せた。 「泣いたって無駄ですよ。後の祭です。話は終わったな。俺は逝くぜ。」 「待って。」 小さな手が俺の尻尾を掴む。 「何だ?」 「あなたは、わたし達に言うべき言葉があるはず。だからこそ、ここに来た。違う。」 確かにその通りだ。しかし、 「今更お前らに話して何になる。」 「話して。」 「ふざけるな。こんな所に居てたまるか。帰るぞ。」 「離さない。」 「なら、シャミセンから出ていけば良いだけだ。じゃあな。」 「不可能。」 長門の言葉通り、俺はシャミセンから出れなかった。 「あなたが猫に憑依した行為は、本来してはいけない。 それを解くことが出来るのは、この中でわたしだけ。」 つまり、俺がシャミセンから出れないで困ると想定済みという訳か。 「そう。」 やれやれ、長門さんには、かないませんよ。 「今から、あなたを解き放つ。じっとして。」 「最後に良いか?」 「何?」 「おばけの俺は、お前には、見えないのか?」 「否、見える。」 俺が死んだ後、お前が来た時、近くにいたが、 まさか、気づかなかったなんて長門らしくないな。 「気付いてた。しかし、涼宮ハルヒもいた。 この場合、無理に言葉を交わさないのが妥当であると判断。」 なるほど。もう一つ。 俺をハルヒの夢に招待した理由が解らん。 わざわざ喜緑さんと古泉を用意してまで、朝倉を倒す芝居をする必要は無いだろう。 何故、一気に俺とハルヒを殺らなかった? 「何の事?」 長門の手が止まる。 「僕も知りません。」 おいおい、冗談キツいぞ。 「本当。した記憶は無い。」 何だこの違和感。どこかで感じた記憶がある。 「詳しく話して頂けますか?」 俺は、ありのまま話した。 ハルヒの夢に送られた事。 朝倉が出現した事。 朝倉の言葉「真実」「終わらせない」 勿論、俺がハルヒに不覚にも「愛おしい」と言った事は内緒である。 「あなたの言葉が本当なら、この世界は偽りの世界。」 つまり、改変された世界だと? 「多分そう。あなたの話からすれば、改変したのは朝倉涼子。」 穏やかに、しかし力強く長門は言った。 「あなたを元の世界に帰還させる事も可能。」 「これは興味深い話ですね。僕も協力しますよ。」 「わ、わたしもキョン君と涼宮さんのために、働きます。」 「すまん、助かるよ。古泉、朝比奈さん。だが、良いのか?」 「罪滅ぼしですよ。もっとも、これで償えるとは、思っていません。」 「それでも、有り難いよ。」 「但し100%戻るとは、限らない。」 「構うもんか。やってみるさ。」 「あなたが元の世界に戻ったとしても、あなた達が幸せになるとは、限らない。 他の勢力に狙われているのは当然。今回同様わたし達が敵に回る事もある。 あなたは一人でも、彼女を護れる?」 「…………。」 単純に考えれば答えはNOだ。 桁違いの頭脳と力を持った勢力とただの凡人一人が戦っても勝てるはずがない。 簡単に言うと、戦闘力5の地球人とフリーザ一味である。 「考える時間はまだある。ゆっくり考えて欲しい。それと一応、あなたが帰る準備をしておく。」 「分かったよ。気長に考えるさ。まだ、時間は残ってる。」 「次に来る時は、涼宮ハルヒと一緒に来て欲しい。」 「ハルヒ?」 「どうしても必要。」 「分かった。それとよ、何故俺の記憶だけ残っている?」 「解らない。だが誰かがあなたを守った可能性が高い。」 「そうか。まあいいや。」 「では、離す。」 スッとする気分と共に、目の前が真っ白になった。 目の前には朝比奈さん、長門、古泉がいた。 「じゃあな。」 長門にしか聞こえない言葉を吐き捨て、俺は部室を後にした。 家に着くとハルヒがいた。何しに来やがった。 「暇だから、来てやったわ。」 「俺は忙しかったがなぁ。」 「忙しい?あんたが?どこ行ってたの?白状しなさいよ。」 まずい。口が滑った。長門達に会いに行ったなんて言えないぞ。 「し、親戚の家にも行って来たのさ。」 「本当?それにしては、帰りが早くない?怪しいものね。」 「本当だとも。顔見てすぐ帰って来た。」 「まあいいわ。今更、どうこう言える立場じゃないし。 それよりキョン!!あたし暇なの。どっか行きましょうよ。」 「思い出巡りでもしょうか。」 「過去を振り替えるのは嫌。前をだけを見て行動したいの。」 俺達に未来は無いようなものなのだがな。 ハルヒには、思い出したくもない過去があるのだろう。 わざわざ俺がハルヒの傷をいじる必要はない。 「おし、映画でも見るか。」 「映画ならいいかな。」「じゃあ、行くか。」 「競争よ。キョン。」 ハルヒはふわっと浮かび上がり、繁華街の方へと飛んで行った。 「待てよ。」 俺も必死になって追いかける。 楽しい。今、俺は人生(死んでるけど)で一番幸せなのかも知れない。 誰にも邪魔をされず、平和で、近くには俺を導くハルヒがいる。 ここは、天国のような世界なのか。 気付いたら映画館だった。 「どれ見るか?」 「そうねえ。あれがいい。」 ハルヒが選んだのはSF映画だった。 ハルヒが好みそうな、いかにも宇宙人や超能力者が出てきますよ的な映画だった。 「入るか。」 「待って!!」 ハルヒは、俺の腕を引き寄せ、俺の腕と絡ませた。 「少しは、あたしの夫らしくしなさいよ。」 夫!? 「もう、婚約したのと一緒よ。夫婦なの。」 ふふふと笑いながら、ほんのり顔を赤らめるハルヒ。 俺は、かなり恥ずかしい。多分、顔が真っ赤だね。 周りに霊感の強い人が見ていたらどうしようかと思う。 どうしようも無いが……… 「タダで入るなんていい気分ね。VIP客みたい。」 俺は、罪悪感でいっぱいだった。小銭を探したが無い。 あっても払う気はないし、払えるわけもない。 映画はあまり面白い代物ではなかった。 ハルヒなんて、途中から眠っている。 なんか俺も頭がぼーっとしてきた。 俺は元の世界に戻りたい。 あいつが起こす問題。 それを試行錯誤し、解決する俺達。 ハルヒが消失した日。 あの時はそう思い、エンターキーを押したはずだったよな。 だけど………… だけど…… だけど!! もう疲れた。 横には、ハルヒの寝顔。性格とヘンテコな能力さえ除けば、ただの可愛い少女だ。 「あなたは一人でも、彼女を護れる?」 頭に響く言葉。 「否、俺はハルヒを助ける力なければ、気力も無い。」 虚しく呟く。 映画はいつの間にか、エンディングに入る。 綺麗な曲が流れ出した。 俺は、何故此処にいる。 朝倉は俺に何を望む。 己の無力さを教える為か? 俺はともかく、ハルヒまで殺す利点は何だ? 解らない。 俺は何をすれば良い? 「あれ、終わったの?映画。」 「ああ、起きたか。」 「帰ろっか。」 「そうだな。」 「おんぶ。」 「は?」 「何度も言わせるな!!おんぶよ。おんぶ。」 「はいはい。」 「今日は一緒にいよっか。」 「ダメ。家に帰りなさい。」 「だって暇なんだもん。どうせ幽霊だから、誰とも話せないし。」 俺にはシャミセンがいるけど。 そういえば、シャミセン連れて帰るの忘れた。 今頃どうしているだろうか。 「ね。いいでしょ?」 「わかった。わかった。」 家に帰って驚いた。 「お帰りなさい。」 「「え゛!?」」 シャミセンと長門がいたのだ。 長門は俺達が見えてるんだよな。 「ちょ……ハルヒがいるんだぞ。」 「好都合。」 「ちょっとキョン。これは何!?不倫?不倫なのね!?」 「MAMAMA待てハルヒ!!誤解だ。ご懐妊だ。」 時既に遅し。くだらない駄洒落を言うや否や、ハルヒの連続グーパンチが飛んでくる。 「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ。」 「痛い、痛い!!長門!!何とか言ってやれ。」 「………自業自得。」 どう見ても長門です。本当に有難う御座いました。 「あれ?何で有希としゃべってるの?」 今頃気付くな。 「わしもおるぞ。」 「ひっ!!猫がしゃべった?」 シャミセン。お前もか。 第七章へ